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精神科の病名告知の限界

更新日:2023年3月27日

このページについて:精神科の病名告知の限界点について説明します。


精神科に通院している方であれば、自分の病名、診断名について、知りたいと思うのは当然でしょう。もちろん、自身の病名について知るのは、良いことです。病気を知ることで初めて治療について考えることができます。言い換えれば、病気について知ることが治療の一歩目です。

しかし、精神科の病名、診断には限界があるのです。病名を知るのであれば、その限界点についても知っておいた方が良いと思います。

まずは、精神科の病名、診断名は変わる可能性があることを知っておいて下さい。

現在のところ、精神科では、ほとんど症状だけで診断します。もちろん病気の原因についても診察の中で評価・考察しますが、それによって診断が決まるわけではありません。現段階では、精神疾患の原因は極めて評価が難しいのです。

このため、精神科では症状の種類や重症度、持続した期間などを聴取して診断を下します。つまり、症状が変われば診断が変わるということです。症状が長引いても、症状が重くなっても診断が変わるのです。

例えば、強いストレスから抑うつ症状や不安症状が出る精神疾患で、適応障害というものがあります。適応障害は、うつ病や不安障害と同じ症状が出ますが、うつ病や不安障害よりも症状が軽かったり、症状の持続期間が短かったりします。このため、うつ病や不安障害とは診断せず、適応障害と診断します。しかし、後に重症化したり、症状が長引いたりすると、うつ病や不安障害などと、他の病名に変わるのです。

こういう例は他にもあります。外傷後ストレス障害(PTSD)という精神疾患でも、症状の持続期間が短い場合は、急性ストレス障害と呼びます。そして、症状が1ヶ月以上長引くと、PTSDと呼び名が変わるのです。別に症状が変わるわけではありませんが、症状の持続期間で病名が変わります。

症状の変化とともに病名が変わることもあります。例えば、うつ病は、後に躁状態、躁病の症状が出てくると、双極性障害に名前が変わります。うつ病と双極性障害は、治療薬が違いますから、病名の変更とともに治療法まで変わることになります。

本当は、当初のうつ病の段階から双極性障害を発症していたのですが、うつ病と双極性障害によるうつ状態の症状はほとんど同じであるため見分けがつきません。このため、当初はうつ病と診断され、後に躁状態、躁病の症状が出て初めて双極性障害と診断されるのです。最近では、躁状態が出る前のうつ状態の時から、画像検査などにより双極性障害と判別する方法も開発されてきています。ただ、まだ試験的に利用されている段階であり、一般に普及しているわけではありません。

また、精神科では有効な検査が少ないことも、診断が難しい理由の一つになります。内科などでは、血液検査や画像検査によって診断がつきますが、精神科の場合はなかなか有効な検査法がありません。病気を生物学的に評価する検査を、バイオマーカーと呼びます。精神疾患のバイオマーカーについては、世界中で研究されていますが、まだ実際の医療にはほとんど用いられていません。

このため、精神科の診断は問診に頼ることになります。問診により症状を確認して病名をつけるのです。問診に頼るということは、患者さんや付き添いのご家族が医師に伝える言葉によって診断が左右されるということです。もしも、患者さんや家族からの病状や状況の説明が無かったり、不十分だったりすると、診断が不正確になってしまうのです。

さて、精神科の病名に限界があることは、ご理解いただけたでしょうか。こういう話を聞くと、「精神科なんていい加減だな」と思うかもしれません。実際に至らない点が多々あるのは事実なので、そう思われるのも仕方ないと思います。ただ、症状を細かく評価し、背景にある原因についても考察を重ねることで、より正確に診断を下すことはできます。それに、医療の世界は日進月歩ですから、今後は精度の高いバイオマーカーが開発され、より正確に病名をつけられる日もくるかもしれません。

ただ、どんなに医療が進歩しても患者さんから話を聞いて診断するという手法は残るでしょう。そうである以上、正確な病名をつけるには、患者さんからの話が大事であることに変わりはありません。患者と医師の関係性をしっかりと構築し、なんでも話せるような雰囲気を作ることが大切なのです。

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