うつ病と心臓病の関係
更新日:2023年3月27日
このページについて:うつ病は狭心症、心筋梗塞、心不全などの心臓病のリスクを上げることが知られています。このメカニズムを説明します。
うつ病は狭心症、心筋梗塞、心不全などの心臓病のリスクを上昇させることが知られています。どうしてでしょうか。いくつかの医学的かつ科学的な研究から、有力な仮説が生まれていますので、今回はその説明をしていきます。
うつ病は自律神経のバランスを崩し、交感神経系を活性化させ、心拍数を上げたり、血圧を上昇させることが知られています。これにより心臓に負担がかかるのです。また、うつ病はホルモンのバランスも崩します。ホルモンを調整するシステムは色々とありますが、そのうちの一つに、視床下部ー下垂体ー副腎という組織が繋がってコルチゾールなどのホルモンを調整するシステムがあります。うつ病はこのシステムを阻害し、ホルモンバランスを崩すのです。これが崩れると、血圧が上がったり、心臓の周りの血管が縮んだりと心臓に悪いことが起こります。うつ病が心臓病を引き起こす背景には、こうしたことが関わっていると考えられます。
また、最近では、うつ病になると血小板という血液を固める作用のある物質が活性化したり、血管の内側の機能が壊れたりして、動脈硬化が起こりやすくしたり、血栓症を起きやすくしたりする可能性も考えられています。これも、心筋梗塞などと関係があるかもしれません。
心臓病の方では、慢性的な炎症が起こることがあります。炎症では免疫細胞からサイトカインが分泌されますが、これがうつ病の発生に関わるという説があり、それを支持する科学的根拠も多数出てきています。これは、心臓病によりうつ病が引き起こされる可能性も示唆される話です。
うつ病と心臓病の関わりの背景には、体内の中の異常だけでなく、行動面の変化もあると思われます。うつ病になると、例えば、運動しなくなったり、お酒に溺れてしまったり、タバコを吸いすぎてしまったりと不健康な生活をしてしまうことが多いです。こうした生活により、体を害することもあるはずです。しかし、生活スタイルを変えるには、変えようという気持ちや努力が必要です。うつ病の方は、なかなか気持ちがついていかず、生活スタイルを変えることができません。うつ病になると悲観的になりますし、気力も無くなります。「健康になるなんて意味ない」などと思ってしまったり、努力する気力がわかなくなったりするので、生活スタイルを変えることが難しいのです。また、心臓の病気の治療にはリハビリも含まれますが、うつ病になると気力が無くなり、リハビリを行うことが難しくなります。うつ病と心臓病が同時に起こると予後が悪くなるのですが、リハビリができない、治療を続けられないということも要因の一つと考えられます。
このような理由から、うつ病になると心臓の具合まで悪くなってしまうことがあると考えられています。もしも心臓の病気になり、同時にうつ病になってしまった場合、心臓の治療を成功させるためにも、うつ病の治療も同時に行う方が良いでしょう。うつ病は精神療法・心理療法という治療もあれば、薬による治療もあります。もしも薬を使う場合、三環系抗うつ薬という種類のうつ病の治療薬は心臓に悪い副作用がありますので、あまり使いません。その代わり、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの副作用の少ない抗うつ薬を使います。ただし、それでも副作用が絶対にないわけではありません。副作用のリスクを考えるのであれば、まずは心理療法から行う方が良いかもしれません。また、必ずしも専門的な治療でなくても、心理的なサポートはうつ病の治療に良い効果をもたらすものです。友人や家族がうつ病になった場合、専門的な知識がなくても良いので、心の支えになってあげるという意識が大切です。
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