認知症の精神症状と介護者の負担
更新日:2023年3月27日
認知症に伴う精神症状が介護者のメンタルに影響するという話をします。
認知症とは、脳の知的な能力が衰える病気の総称です。総称ですから、その中には色々なものが含まれます。アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症などが多いですね。
こうした認知症は、あくまで知的な能力の衰え、言い換えると認知機能障害によって診断されます。認知機能障害には、例えば、記憶力の障害、計算力の障害、判断力の障害、言葉の能力の障害などが含まれます。
しかし、認知症の症状は知的な能力の障害や認知機能障害だけではありません。認知症は様々な精神症状を引き起こします。精神症状は同時に行動の変化も引き起こします。認知症に伴う精神症状や行動の変化は沢山ありますが、専門用語では、まとめてBPSDと呼びます。これはBehavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略で、直訳すると認知症の行動・心理症状です。
認知症の初期から精神症状が出たり、認知機能障害よりも先に精神症状が出ることもあります。このため、高齢な方の精神症状は認知症の可能性を考えて評価しないといけません。
認知症の精神症状は、介護の上で大きな問題になります。ある論文によると、認知症に伴う精神症状や行動の変化は、介護者の苦痛と結びついていると言います。
例えば、認知症の方にうつ症状が見られることは多いのですが、これが介護者の苦痛に繋がっているという研究結果があります。その他にも、興奮や攻撃性などの精神症状も介護者の苦痛と関係しています。
認知症に伴う精神症状は多様です。イライラ、幻覚、妄想なども認知症で見られることがあります。また、うつ症状とは違うのですか、とても無気力になる場合もあります。これをアパシーと呼びますが、何にも興味を示さずボーッとしているような症状のことを言います。
こうした精神症状は介護の場面でよく問題になります。精神的に不安定な方の介護は大変なものです。あまりに介護の負担が強いと、介護者もメンタルに問題が出ることがあります。例えば、介護者がうつ状態になることもあり、介護うつなどと呼ばれます。介護うつの治療では、まずは介護の負担を軽減することが大切になります。
ご家族で認知症の方を介護している場合、精神症状のせいで自宅での介護が難しくなってしまい、施設への入所を考えるケースも少なくありません。しかし、施設の中でも、他の利用者さんに迷惑をかける行動は問題視されます。例えば、認知症のために攻撃性が強くなってしまった方が、同じ施設にいる方に暴力を振るってしまったり、暴言を吐いてしまったりすることがあります。こうした問題行動により、施設での介護が難しくなるケースも多いのです。
ただし、認知症に伴う精神症状は必ずしも問題ばかりではありません。特に何もなくても楽しくなったり、ニコニコしたりする精神症状もあります。これは多幸などと呼ばれますが、介護の場面ではあまり問題にならない精神症状です。むしろ周りを明るくするかもしれませんね。
認知症によりイライラや興奮などの精神症状が出た場合、精神科で治療することができます。ただし、専門性が問われる領域なので、認知症の精神症状は対応していない精神科もあります。一概に全ての精神科で対応できるとは言えません。
認知症の精神症状の治療に抗精神病薬を使うことがありますが、強い副作用が出ることも少なくありません。できるだけ副作用が出ないように、通常よりも低用量から始めてゆっくり増やしていくという手段をとりますが、慣れていない医師だと、いきなり通常量から処方してしまうこともあります。これだと、歩けなくなったり、呂律が回らなくなったり、食事をうまく飲み込めなくなったりしてしまうリスクがあります。
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