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認知症と間違えやすい病気

更新日:2023年3月27日



今のところ、認知症は治療により進行を遅くすることはできても、進行を止めることはできません。しかし、だからといって認知症の症状が出ても、どうせ治らないと決めつけてはいけません。

実は、認知症のように見えても認知症ではない病気がたくさんあります。そうしたものは、適切に治療すれば治るものもあるのです。これを認知症だから治らないと思ってしまっては、回復のチャンスを失うことになります。

誤診を防ぐためには、血液検査、頭部CT・MRI検査は必須ですし、必要に応じて脳波検査、髄液検査、脳血流SPECT検査、ダット・スキャン、MIBG心筋シンチグラフィなどを行います。

それでは、認知症と間違えやすい病気の例を以下に説明します。

せん妄:肝機能障害、腎機能障害、心不全、肺炎など、様々な身体疾患が認知症に似た症状を引き起こすことがあります。これを、せん妄と呼びます。せん妄は急激に悪化したり、1日の中でも良い時と悪い時があったりというように、症状が激しく揺れ動くのが特徴です。せん妄の症状は人それぞれ違いがあり、物忘れや判断力の低下などの認知症の症状の他に、無気力になったり、激しく怒ったり、幻覚が見えたり、妄想が出たりなどの精神症状が重なることがあります。これは原因となる身体疾患が改善すれば、徐々に落ち着いてきます。幻覚や妄想、興奮などの症状が強い時は、一時的に抗精神病薬により症状を抑えます。

身体疾患だけでなく、薬の副作用でせん妄が起こることもあります。睡眠薬や抗不安薬として使われるベンゾジアゼピン系の薬剤はせん妄を引き起こします。特に高齢者ではせん妄の副作用が起きやすいです。また、パーキンソン病の治療薬でもせん妄が起きます。胃薬やステロイド(免疫を抑える薬)などでもせん妄が起こることがあります。薬がせん妄の原因である場合は、薬を中止するとせん妄が改善することがありますが、すぐに中止できない薬もあるので注意して下さい。例えば、ベンゾジアゼピン系薬剤は徐々に減らさないと離脱症状があります。

脳炎、髄膜炎:脳や脳の近くに炎症が起きると、記憶障害などの認知症の症状が出ることがあります。ウイルスや細菌などの影響で脳炎、髄膜炎になることもありますが、自分の免疫が自分自身を攻撃する自己免疫疾患の場合もあります。自分の免疫が脳を攻撃する疾患は、自己免疫性脳炎などと呼ばれます。自己免疫性脳炎は最近になり多数の種類が見つかっています。最近よく話題に上がるのは、抗NMDA受容体脳炎というもので、統合失調症に似た幻覚や妄想などの症状が出たり、認知症のような症状が出たりします。これは免疫を抑える治療により治療可能です。このタイプの脳炎は、専門の病院や研究機関でなければ検査ができません。これは、今後の医療体制の課題でしょう。

甲状腺機能低下症:甲状腺という喉のあたりに存在する組織が甲状腺ホルモンというものを分泌しています。これが何らかの原因で減ってしまうと、体温が低下したり、足がむくんだり、無気力になったり、うつ病のような症状が出たりするのですが、認知症の症状が出ることもあります。甲状腺ホルモンは血液検査で測定が可能ですから、認知症の症状が出たら採血を行なってチェックします。甲状腺ホルモンが不足している場合は、レボチロキシンナトリウム(甲状腺ホルモン)という薬で補うことができます。

ビタミン欠乏:ビタミンの欠乏により脳にダメージが起きることがあります。有名なものはビタミンB1(チアミン)が欠乏した時に起こる、ウェルニッケ・コルサコフ症候群というものです。ウェルニッケ・コルサコフ症候群になると、認知症の症状や歩きにくくなるなどの症状が出ます。ビタミンB1はお酒を飲むと消費されるため、大量にお酒を飲む人はウェルニッケ・コルサコフ症候群になりやすいです。この場合、発症してからすぐに大量のビタミンB1を静脈投与すると改善する可能性があります。また、ビタミンB12や葉酸などが欠乏しても、認知症と同じ症状が出ます。この場合も、ビタミンを補充する治療を行うと回復することがあります。

特発性正常圧水頭症:脳は脳脊髄液という液体に覆われていますが、この脳脊髄液が増えすぎて脳を圧迫することがあります。これを水頭症と呼びます。水頭症には色々なタイプがありますが、高齢になってから起こる水頭症は、特発性正常圧水頭症というものが多いです。これはCTやMRIなどの脳画像検査を行うと分かるのですが、脳脊髄液が増えて側脳室という部分が広がるなどの所見が出ます。こうなると認知症の症状に加えて、歩くときにふらついたり(歩行障害)、失禁したりという症状が出ます。特発性正常圧水頭症の治療では、増えすぎた脳脊髄液を管を使って他の場所に移動させる手術(髄液シャント術)を行います。

脳出血、脳梗塞:脳の血管が破れて血が吹き出すことを脳出血、脳の血管が詰まってしまうことを脳梗塞と言います。合わせて、脳卒中という言い方もあります。こうした脳の血管の障害は、麻痺や意識障害などを引き起こすのですが、認知症も引き起こします。この場合、血管性認知症という言い方になるので、認知症という診断が誤りというわけではありません。しかし、アルツハイマー型認知症などと違い、緊急の処置が必要という点で対応に大きな違いがあります。急激に発症した脳出血や脳梗塞は、すぐに治療しないと命に関わることもあるので、すぐに救急車を呼び、専門病院に搬送して治療を開始しなければなりません。早期治療により回復も見込めます。例えば、脳梗塞であれば、血栓溶解療法をすぐに開始すれば、症状がかなり回復することもあるのです。とにかく手遅れにならないために、早期発見、早期治療が大事です。脳出血、脳梗塞は頭部CT検査や頭部MRI検査などで評価します。

硬膜下血腫・硬膜外血腫:転んで頭をうつと、脳と頭蓋骨の間あたりに出血が起きて、血がたまることがあります。これを血腫と呼びます。血腫は急激に広がることもあるのですが、数週間から数ヶ月経過して徐々に血がたまり、少しずつ脳を圧迫してダメージを引き起こすこともあります。このように進行が遅い場合は認知症と誤解されやすいです。血腫は自然に治癒する場合もあるので軽症の場合は様子を見ますが、重症の場合は手術により血腫を取り除きます。血腫は頭部CT検査で発見することができます。

高血圧性脳症:ひどい高血圧により脳にダメージが起きる場合があります。頭痛、吐き気などの症状と共に、認知症に似た症状が出て、さらに悪化すると、けいれんや意識障害が出現します。MRI検査をすると、脳の後ろの方が白く映ります。これは血圧を下げる治療により回復することから、後方可逆性脳症症候群(PRES: posterior reversible encephalopathy syndrome)と呼ばれます。可逆性ですから、治るということです。しかし、やはりすぐに発見して治療しないと手遅れになりますので、早期に検査することが大切です。

てんかん:てんかんとは脳の細胞が興奮し、それによって気を失ったり、手足の神経まで興奮して手足がけいれんしたりする病気です。子供の頃に発症する場合もあれば、脳血管障害で起こる場合もあり、他にも色々な脳の病気がてんかんを引き起こします。アルツハイマー型認知症や血管性認知症の人も、てんかんを起こしやすいことが知られていますので、認知症とも縁がある病気です。てんかんは、発作的に症状が出るのが特徴で、この発作はてんかん発作と呼ばれます。てんかん発作の症状は非常に多彩で、失神やけいれん以外にも、気持ち悪くなったり、動悸がしたり、めまいが起きたりなどの自律神経症状も起きます。ぼーっとするだけのてんかん発作もありますし、幻覚が見えたりするてんかん発作もあります。ぼーっとする症状の場合や幻覚が見える症状の場合は、認知症の症状に間違われることがあります。また、一過性てんかん性健忘という一時的な記憶障害が生じることもあり、これも認知症に間違われやすいです。しかし、一過性てんかん性健忘は多くの場合、1時間以内に回復しますので、認知症とは違う症状です。こうしたてんかん由来の症状は抗てんかん薬と呼ばれる種類の薬により治療が可能です。

このように、認知症と間違えやすい病気はたくさんあります。誤診を防ぐためには検査が重要です。最低でも血液検査と頭部CTやMRIなどの画像検査は必要ですから、病院で検査してから認知症と診断してもらうようにしましょう。

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