双極性障害と炎症の治療
更新日:2023年3月27日
このページについて:双極性障害は、神経炎症が関係していると考えられています。双極性障害を炎症を抑える薬で治療できるか調べた研究を紹介します。
ウイルスや細菌に感染すると、体の中で炎症が起き、熱が出たり、怠くなったりします。筋肉や関節に炎症が起きると、腫れたり、痛んだりします。こうした炎症は私たちの体にある免疫の働きで起こります。
炎症という現象は、誰でも一度は経験したことがあるでしょう。炎症を抑える薬は解熱鎮痛薬と呼ばれ、日本の薬局ではどこでも売っています。
実は、炎症は精神疾患にも関係します。脳や神経系のわずかな炎症が精神疾患と関連していることは、様々な研究結果で指摘されています。これを神経炎症と呼んだりしますが、この神経炎症が精神症状を作り出しているのではないかという仮説があるのです。
双極性障害という精神疾患も、神経炎症と関係しているのではないかと言われています。双極性障害は、気分が高揚したり、怒りっぽくなったりする躁状態と、気分が落ち込むうつ状態の両方の症状が出る病気です。
この仮説が正しいのなら、炎症を抑える薬を使えば、双極性障害の症状が改善するかもしれません。
実は、NSAIDsというタイプの炎症を抑える薬が双極性障害の治療に有効だという研究結果が既に報告されています。NSAIDsは解熱鎮痛薬の一種で、薬局によく売られています。
今回は、NSAIDsの効果を助けると言われるアセチルシステインとアスピリンというNSAIDsの一種の薬の両方を使って双極性障害を治療したという臨床研究をご紹介します。
この研究には18–65歳の双極性障害の患者さんが24人参加しました。患者さんは、アスピリンというNSAIDsを投与されるグループ、アセチルシステインを投与されるグループ、アスピリンとアセチルシステインの両方を投与されるグループ、プラセボという偽物の薬を投与されるグループに分けられます。この分け方は全くのランダムで、医師も患者さんも、どのグループに配属されてたか教えてもらえません。
しばらくしてから各グループの治療の成果が比較されました。その結果、8週後の時点では差がなかったものの、16週後の時点では、アスピリンとアセチルシステインの両方を投与されたグループの治療成績が他のグループよりも良かったという結果が出ました。
血液検査で炎症を反映するCRP、IL-6というものも測定されましたが、それらは特に差がなかったようです。
参加者の少ない研究なので、もっと多くの人数による臨床研究で再検討する必要はあると思いますが、炎症を抑える薬で双極性障害の治療が可能かもしれないという可能性が見える研究結果です。今後の研究の発展に期待です。
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