セルフ・スティグマ~自分自身への差別・偏見

今回は自分自身に対する差別や偏見について話します。

世の中には差別や偏見がたくさんありますが、精神疾患に対しても多くの差別や偏見があります。これを英語で、スティグマと呼ぶことがあります。スティグマとは烙印を意味します。たとえば、負け犬とレッテル張りするなどがスティグマです。

精神疾患における、よくあるスティグマ(差別・偏見)の例を挙げますと、以下のようなものです。なお、読者がこうしたスティグマを信じないように、私の反論も併記しておきます。

「精神疾患なんて、心の弱さだ」

(心が弱くて何が悪いのでしょう。そもそも、自分自身の弱さを認めるのは成長ですから、早く認めておいた方が良いです)

「心療内科を受診するなんて甘えだ」

(心の病気で精神科や心療内科を受診するのは、社会的に認められた当然の権利です。それを、個人の考えで、甘えと定義するのは大胆な発想ですが、どういう理屈でしょう? そもそも甘えたら何が悪いのかもよく分かりません)

「メンタルの問題で仕事を休んではいけない」

(企業・雇い主には法的に安全配慮義務がありますから、従業員が精神疾患で休職が必要であるなら、企業・雇い主側はその従業員を休ませないといけません)

こうしたスティグマ(差別・偏見)を持っていると、自分がうつ病や適応障害などの精神疾患になった時に、スティグマが自分自身に向かいます。これを、セルフ・スティグマです。そうなると、自分で自分を責めたり、適切な治療を避けたり、休まずに無理しすぎたりします。そして、精神状態がさらに悪化したり、悪い状態が長引いたりします。

つまり、精神疾患の治療においては、セルフ・スティグマがあると予後不良になるわけです。

しかし、こうしたセルフ・スティグマは固定観念で、なかなか変わるものではありません。強引な説得により、他人の固定観念を無理に変えようとすると、嫌がられたり、怒られたりするだけです。

ひとつの解決方法として、動画を見るというものがあります。強引な説得よりも、動画視聴の方が受け入れやすい気がします。海外の研究で、セルフ・スティグマを解消するための2分間の動画を作り、それを精神疾患を抱える18〜35歳の人に見せて、セルフ・スティグマが改善するか確かめた研究があります。

引用文献:Randomized Controlled Trial of a Brief Video Intervention to Reduce Self-Stigma of Mental Illness. J Clin Psychiatry. 2024.

この研究結果によると、動画を見た方は一時的にセルフ・スティグマが解消されたそうです。ただ、その効果は長続きしないという結果も出ました。効果が長続きしないのは残念ですが、一時的にでも効果があるなら、有意義なのかもしれません。

スティグマは個人の考えというよりも、社会全体に広くはびこる固定観念ですから、社会的に啓蒙していくことも大事でしょう。寛容な社会を作っていきたいものです。

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